eスポーツブームが巻き上がっている中、国内でもeスポーツに関して様々な取り組みが行われており、各地域でeスポーツを盛り上げようと数多くのイベントが行われています。

eスポーツを語る上で外せないのが「賞金」が出るゲーム大会であるということで、海外のeスポーツの大会では億を超える額の賞金が動いていますが、日本国内では賞金付きゲーム大会を開催する上でクリアしなければならない法律的な問題が存在します。

今回は国内における賞金付きゲーム大会の法律的な問題について、消費者庁より一つの結論が出ましたので、その内容について述べていきたいと思います。

クリアしなければならない法律:景品表示法

日本国内において賞金付きゲーム大会を行うためには、この景品表示法という法律の問題点をクリアしなければなりません。

景品表示法は、正式には、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)といいます。

消費者なら、誰もがより良い商品やサービスを求めます。
ところが、実際より良く見せかける表示が行われたり、過大な景品付き販売が行われると、それらにつられて消費者が実際には質の良くない商品やサービスを買ってしまい不利益を被るおそれがあります。

景品表示法は、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限する(上限を10万円もしくは商品の20倍までとする)ことなどにより、消費者のみなさんがより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ります。

この法律は、景品類を「顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益」と定めています。

つまり、メーカー自身が高額賞金を出して大会を後日行うということは、大しておもしろくもないゲームをメーカー自身が高額賞金を出すことで無理やり価値のあるものとしてユーザーに販売する「販促」につながることになり、この高額賞金がまさしく景品類の提供にあたるということです。

ただし、「取引の相手方に提供する経済上の利益であつても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供には当たらない」とも定められています。

景品表示法にまつわる大会形式

景品表示法にまつわる大会形式は下記の4点が挙げられます。

基本無料のゲームを用いた大会

国内では、LOLやShadowverseといったPCゲームの大会が開かれています。
ゲーム自体は無料で誰でもプレイできるので、この場合はメーカー自身が高額賞金をつけても景品表示法上の「販促」にはあたらないという捉え方がなされています。
景品表示法をクリアしているため、問題なく大会を行うことができます。

有料販売作品であるが「第三者」が賞金を出すゲーム大会

賞金を出すのが第三者なので、この場合は「販促」とは見なされません。
景品表示法をクリアしているため、問題なく大会を行うことができます。

先日行われた「EVO Japan 2019」ではNTTドコモが特別協賛となり、各部門で高額賞金が出されたゲーム大会でした。

なお、EVO Japan 2019には自分も観戦&イベントに出演してきましたので、よろしければぜひこちらの記事もご覧くださいませ!

有料販売作品であり販売元が賞金を出すが、「招待制」のゲーム大会

前述の「取引の相手方に提供する経済上の利益であつても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供には当たらない」という内容に該当するケースです。
大会を仕事として扱い、その報酬として賞金を出す労務契約とすれば「販促」とは見なされません。
つまり、メーカーがハイレベルなプレイを見せるために大会を開く際に、実力のあるプレイヤーを優れた人材とみなして雇い入れるという形態をとっていると考えることができます。
景品表示法をクリアしているため、問題なく大会を行うことができます。

有料販売作品であり販売元が賞金を出す、「自由参加のゲーム大会

プロ、アマを問わず誰でも参加可能な大会形式です。
これについては前述の景品表示法の問題となっている「販促」と完全に見なされます。
景品表示法に抵触しているため、高額賞金を付けた大会を行うことはできません。

賞金を受け取れるプレイヤーが限定的であるという問題

プレイヤー目線で考えた時、高額賞金付き大会に参加して上位の成績を収めた時に「誰しもが規定の賞金をもらえて当然だ」という考えは至極全うなものだと思いますが、前述の大会形式の中で一般参加者が高額賞金を受け取れるのは、事実上「基本無料のゲームを用いた大会」と「有料販売作品であるが第三者が賞金を出すゲーム大会」のみです。

なお、格闘ゲームにおいては国内に数多くの強豪プレイヤーがいますが、メーカーによる招待性のゲーム大会を開くとなった場合、メーカー側としては(言い方は悪いかもしれませんが)一般的によく知られているような有名プレイヤーを無難に招待するでしょう。
そうすると、他にも優秀なプレイヤーはたくさんいるはずなのに、メーカー側に選んでもらえなかったからそもそも参加させてもらえないということになってしまいます。

JeSU(日本eスポーツ連合)の取り組み

JeSUはこの景品表示法上の問題をクリアするため、いかなる形態の賞金付きゲーム大会も問題なく開催できるようにすることを目的にこれまで活動を続けていました。
誰しもが自由に大会に参加できて平等に賞金を受け取る権利があるという環境を実現してもらうことがプレイヤーにとって最も期待される部分であり、またJeSUの存在意義であるはずです。

そこでJeSUが打ち出したのが「プロライセンス制度」です。
メーカーの判断で招待された有名プレイヤーに限らず、賞金を仕事の報酬とみなすことができれば支払いは可能です。
自由参加型のゲーム大会において、JeSUのプロライセンスを取得しているプレイヤーは客観的に「この人はプロとしてきちんと実力を持っているプレイヤーだ」とみなすことができ、仕事の報酬として賞金の支払いが担保されるというのがこのライセンス制度のポイントであり、その結果として従来よりも高額賞金を獲得する権利を有するプレイヤーの層を拡大することができるということです。

これまでアマとして活動していたプレイヤーがJeSUのプロライセンスを取得すれば、今後はJeSUの介在する高額賞金付き大会において確実に賞金を受け取れるということです。
ただし、プレイヤー目線で見ると優秀なプレイヤーはたくさんいるのに、JeSUプロライセンスを取得しているプレイヤーはほんの一握りであり、まだまだ平等な環境にはなっていないと個人的には感じます。

JeSUライセンスを取得するには

正直ここがかなり曖昧で自分もよくわかっていなかったのですが、JeSUの公式HPに記載がありました。

要点をまとめると、プロライセンス発行には「JeSU公認大会において公認タイトルの競技で優秀な成績を収めること」と「JeSUの指定する講習を受けること」が条件として挙げられています。
また、これまでの公認タイトルの大会で優秀な成績を収めている場合には、IPホルダーの推薦を条件として例外的にライセンスを発行する場合があるようです。
いずれにしても、優秀な成績を収めるということがライセンス要件としてかなり重要であるということですね。

JeSUライセンスを持たないことによる弊害

先日、東京ゲームショウ2019にて開催されたストリートファイターVの世界大会『CAPCOM ProTour 2019 アジアプレミア』において、プロゲーマーである「ももち」氏が見事優勝を果たし、賞金500万円を獲得する権利を得ました。
しかし、ここで問題が発生しました。

本大会では事前に、賞金を満額受け取るにはJeSUプロライセンスの取得が必要であることが発表されていました。
しかし、ももち氏はこれまでの実績からJeSUプロライセンス取得の資格を有していたものの、本人の意向で受け取っていませんでした。

プロライセンスを有しないももち氏が後日配信を行い、今回の大会優勝で実際に受け取れる賞金額は60200円、副賞のゲーミングモニターが39800円相当(合計10万円、法律上の限度額)との連絡を受けたことを明かしています。

このことについては、後日ももち氏がJeSUおよびカプコンの関係者と協議する予定であり、本大会において高額賞金を獲得するには規定通りJeSUプロライセンスを有するしかないという状況の中どうなるのか注目が集まります。

JeSUのノーアクションレターに対する消費者庁の見解

JeSUは消費者庁にノーアクションレター(リンク)を提出しました。

要点は、下記の場合において高額賞金の提供が景品表示法に違反するかを消費者庁に確認したというものです。

  • 賞金の提供先をプロライセンス選手に限定する大会
  • 賞金の提供先をプロライセンス選手に限定しないが、一定の方法により参加者が限定されている大会

これに対し、消費者庁の回答(リンク)があり、結論としてはいずれの場合も景品表示法上問題がないとのことでした。

特に、JeSUプロライセンスを有することが高額賞金を受け取る必須条件ではないという正式な回答がなされたことは注目すべきポイントであると言えます。

なお、消費者庁の回答によると、一定の方法により参加者を限定するという部分については「所定の審査基準に基づいて大会等運営団体から審査を受けて、参加資格の承認を受けなければならない」とあり、JeSU以外の大会運営団体がどの程度の影響力を有するのか、そしてどのような審査基準を整備していくかについてはいずれにしても課題が残るものとなっています。

総評

有料販売ゲームを用いてメーカー自身が高額賞金を出すゲーム大会の開催を巡っては、これまで景品表示法の問題が大きく立ちふさがっていました。

現状では、JeSUプロライセンス制度を取得することで客観的にプロとしての実力が認められれば、仕事の報酬として賞金を受け取るに足るプレイヤーであるということになり、これが法律上の問題をクリアしながら高額賞金を受け取る1つの認められた方法となっています。

また、JeSUプロライセンスを取得していなくても、新たな大会運営団体がきちんとした審査基準であらかじめ参加者を限定すれば、メーカーが高額賞金付き大会を行うことは法律上問題ないこともわかりました。

法律上の問題をクリアして高額賞金を受け取るための入口は少しずつ広がっているものの、まだまだ解決しなければならない課題はたくさん残っており、今後賞金付き大会を巡ってどのような動きを見せていくのか注目していきたいところです。

最後までお読みいただきありがとうございます!