90年代に対戦型格闘ゲームというジャンルを確立し、現在eスポーツブームで格闘ゲームが注目されるに至ったきっかけといえる伝説のゲーム「ストリートファイター2(スト2)」

初代スト2から細かくバージョンアップを繰り返し、その最終版になる「スーパーストリートファイター2X(スパ2X)」は国内外を問わず今なお根強い人気を誇り、多くのプレイヤーに愛されている格闘ゲームです。

当時はゲームセンターでしか遊べなかったスパ2Xも現在では家で気軽にネット対戦ができるようになり、Xbox版のスト2HD、ニンテンドースイッチ版のウル2、PS4/Steam版のアニコレが国内で主にネット対戦ツールとして使われています。

格闘ゲームにおいて非常に重要な要素として取り上げられるものに入力レスポンスがあり、フレーム単位の攻防が勝敗を左右することもあるので、入力遅延に関してはかなりシビアに影響を受けるジャンルであると言えます。

そこで、今回は入力遅延について、現在スト2の対戦ツールとしてよく使われている実機スパ2X/Xbox版スト2HD/PS4版アニコレ/Steam版アニコレにおいて、コンソール間で入力遅延の差がどれぐらいあるのかについてや、ネット対戦において入力遅延の差が出やすい要素について触れていきます!

ネット対戦における入力遅延の主な要因

ネット対戦における入力遅延(ラグ)の主な要因としては、下記のとおりです。

コンソールの違いにより生じる遅延

これはゲームセンターに置かれている実機(基板)や各種家庭用ゲーム機の間でのコンソールの違いにより生じる遅延となります。
一般的にはゲームセンターに置かれている実機が最もレスポンスがよく、家庭用ゲーム機はそれよりもいくらか遅延が発生します。
また、同じネット対戦でもコンソールの違いによって使われている仕組みが異なっており、これも遅延の差が出る部分となっています。

先日スト2プレイヤーである「がまちち」氏が以下のような条件のもと、オフライン時のコンソールの違いにより生じる遅延の度合いを測定してくれました。

厳密に測定するのであれば、モニターをすべて同じにすることが望ましいのですが、コンソールごとに対応している接続端子が違っていてそれが難しいため、今回基板がブラウン管(モニターによる遅延の影響が最も少ない)につないだ状態、家庭用ゲーム機のタイトルがゲーミングモニター(モニターによる遅延がブラウン管とほとんど変わらないと思われる)につないだ状態、Steam版アニコレがノートPC(モニターによる遅延の影響が多少あるかも?)であることを前提に、測定結果は下記のとおりとなりました。

なお、Xboxはブラウン管の接続端子に対応しているということで、Xbox版スト2HDをさらに遅延が少なくなると予想されるブラウン管で測定してみたところ、コンポジット接続、D1接続共にゲーミングモニターに接続した時よりも遅延が大きくなるという想定外の結果となったようです。
ただし、これに関しては今回の検証で使用したブラウン管がHD非対応であることが原因と考えられ、スト2HDはタイトルの通りHD解像度に合わせる形で開発されており、HD非対応のモニターにつなぐとゲームの仕様上出力処理に遅延が生じると推測されます。

ここで、ゲームにおける時間の最小の基本単位をフレームとして表現するわけですが、本来1フレームは1/60秒≒16.67msに相当するものの、スパ2Xにおいてはターボによる補正がかかるため、リアル時間で1フレームは1/60秒と等価ではありません。
また、コンソールごとにターボ補正が異なっている影響で、同じダルシムステージの3速でも各コンソールでの1フレームあたりのリアル時間は変わります。
そのため、たとえば上記の測定結果で基板スパ2Xにおける平均59.15msと360HDにおける平均71.8msを比べた時に、差し引き12.65msだから12.65×60/1000=0.759Fの差と捉えるのは正確ではありません。

コンソールごとにダルシムステージの3速における1フレームあたりのリアル時間を測定するために、下の画像のようにベガの立ち大Kの1フレーム目の走査線がベガの体にかかったところを始点とし、立ちポーズに戻るフレームが表示される走査線がベガの体にかかったところの前の画像を終点として技のリアル時間を測定し、規定フレームの30フレームで割り算することで1フレームあたりのリアル時間を測定しました。

その結果、基板/Xbox版スト2HD/PS4版アニコレ/Steam版アニコレの30フレームに相当するリアル時間は下記のとおりとなりました。

これをもとにリアル時間の平均値を計算して規定フレームの30フレームで割り算することで、1フレームあたりのリアル時間は基板が12.2ms、Xbox版スト2HDが13.2ms、PS4版アニコレが12.0ms、Steam版アニコレが11.9msと判明しました。
やはりスト2HDの速度がやや遅いのは間違いないのと、アニコレが両者でほぼ差がないのも納得の結果といえます。

以上より、がまちち氏の検証結果を踏まえてオフライン時の各コンソールでの入力遅延の差は下記のとおりとなりました。

これまで一般的に認知されていた遅延の度合いと一致する結果となり、

基板>Xbox版スト2HD(実機より0.59フレーム遅延)>Steam版アニコレ垂直同期OFF(実機より1.72フレーム遅延)>PS4版アニコレ(実機より2.77フレーム遅延)

ということがわかりました。
やはりXbox版スト2HDは遅延の観点からみて非常に優秀ですね!

一方、自身が実際にネット対戦を比較してみた上でほぼ確かだと思われることなのですが、オンライン環境においては、ネット対戦に使用されている仕組みがggpo方式であるスト2HDに比べ、アニコレはさらに遅延の影響が出てしまうことや、ニンテンドースイッチ版のウル2についてはアニコレ以上に著しく遅延が生じてしまう点には注意です(※pingの影響)。

※補足
オロナイン氏が同じようにコンソールごとに遅延を測定したようです。
ブラストシティにDsub15pin(アナログ)でXboxをつなげてBrookのコントローラ基板を使い、画面、ボタン遅延を調べたところ、Xbox版スト2HDは実機より1.06/60秒だけボタンを押した後に攻撃が出るのが遅く表示されたようです。
実機キャミィステージ3速の1フレームあたりのリアル時間のデータがありませんので、正確にこの遅延をフレーム換算することはできないのですが、大雑把に見ても1.3~1.4フレーム程度のそれなりに大きめの遅延が発生していることになります。
本結果についてはがまちち氏の検証結果でも発覚していますが、Xbox版スト2HDはHD非対応のブラウン管につなげるとゲーミングモニターよりも遅延が大きくなる可能性が影響していると思われます
一方、PS4版アニコレをHDMI接続でゲーミング液晶モニターにつなげてBrook基板で測定したところ、2/60秒≒33.3ms程遅く表示されたようです。
これについては、がまちち氏の検証結果における単純なPS4版アニコレと実機との遅延のリアル時間の差である、91.5-59.2=32.3msとほぼ同じ値となっており、前述の通り3フレーム弱程度の遅延とみなしてよいと思います。

モニターの内部遅延

モニターには内部遅延が存在しており、どのモニターを使用しているかで遅延の影響が異なります。
ゲーム機からモニターに信号が送られ、モニターがそれを処理して表示されるまでの間には必ず遅延が発生するのですが、ここがネット対戦に関わらずどのゲームをプレイする上でも遅延の差が出やすい部分となっており、ブラウン管やゲーミングモニター、ゲームモードが搭載されたREGZAなどの液晶テレビは通常のモニターと比較して内部遅延の影響が少ないので、結果として快適にネット対戦をプレイすることが可能となります。

なお、おすすめゲーミングモニターについては以前の記事で触れていますので、ぜひ参考にしてみてください!

回線環境の差により生じる遅延

これはpingと呼ばれる応答速度の値により説明できます。
通常ネット対戦を行う際には、

ゲーム機/PC→(インターネット)→ゲームサーバー→(インターネット)→ゲーム機/PC

という形でパケットが送信されるわけですが、このパケットが送信されて再び戻ってくるまでの時間をpingと呼び、ping値が小さいほどレスポンスが早く遅延が少ないということです。

ネット対戦ができるゲームにおいては、ゲーム内でこのpingがもともと表示されていることが多く、たとえばスト2HDでも部屋を立てた際に下のようにホストのプレイヤーのping値が表示されています。

プレイヤーごとにping値が異なっており、スト2HDの3速の1フレームあたりのリアル時間は前述のとおり13.2msなので、たとえば画像での最小値である13msのプレイヤーとは1フレーム程度の遅延がオフラインよりもさらに上乗せで発生するのに対し、最大値である48msのプレイヤーとは約3.6フレームもの遅延がオフラインよりもさらに上乗せで発生することになり、プレイヤー間での回線環境による遅延の差が顕著に現れていることがわかるかと思います。

ping値が10台のプレイヤーとの対戦では、体感で2フレームもないぐらいの遅延かなと今まで思っていたのですが、前述のXbox版スト2HDのオフラインでの遅延0.59フレームとpingによる影響分の1フレーム程を合わせると見事に想定通りの結果となりますね!

ping値はもともとの回線速度に依存するほか、一般的には地理的に近いプレイヤー同士の方がping値が小さくなって快適なネット対戦ができます。
ちなみに、画像の13msのプレイヤーは自分と同じ関西圏のプレイヤー、それ以外のプレイヤーは九州地方のプレイヤーとなっています。
一方で、画像と同じ九州プレイヤー同士でお互いのping値を見たところ、14msと表示されていたようなので、地理的な要因による影響は結構大きいということですね。

なお、アニコレやウル2のネット対戦ではこのping値が表示されないのですが、自身がプレイした感じスト2HD以上にオフライン時よりも遅延の影響を感じるので、Xbox版スト2HDならping値が10台であってもアニコレやウル2ならもっと大きい値なのかもしれませんね(汗)

総評

昔はゲームセンターでしか対戦できなかったスト2が、インターネットの普及により家で気軽にネット対戦ができるようになりました。
しかし、コンソール間ではっきりと遅延の差が出てしまうことや、モニターや回線による影響もあって、プレイヤー全員が同じように快適にプレイすることが難しいことも事実です。
Xbox版スト2HDなら、環境をしっかりと整えれば2フレームあるかないかぐらいのわずかな遅延でネット対戦が楽しめます。
格闘ゲームをプレイする上で入力遅延の影響は無視できない要素ですので、今回の記事を参考に最適なスト2のネット対戦環境をぜひ整えてみてはいかがでしょうか!

最後に、今回入力遅延の検証を細かく行っていただき、快く情報提供してくださいましたがまちち氏にはこの場を借りて厚くお礼を申し上げたいと思います。
本当にありがとうございました!