先日、2019年5月31日から6月2日にかけて、アメリカのウィスコンシン州でeスポーツイベント「Smash’N’Splash 5」が開催されました。

本大会では、任天堂が出した大人気作である「大乱闘スマッシュブラザーズ」をはじめとして様々なタイトルで競技が行われたのですが、今回スピードランのイベントを数多く開催している「Global Speedrun Association」が協賛ということもあって、eスポーツジャンルとしては珍しい「スピードラン」が競技種目として採用されました。

そこで、今回はこのスピードランというジャンルに注目し、そのゲーム性や可能性について考察していきたいと思います。

スピードランとは

スピードランとは、様々なゲームの中で1つの要素として取り込まれている「タイム(時間)」に着目し、特定のルールにのっとってゲームのクリアタイムを競い合うジャンルです。

たとえば一番わかりやすいのはレースゲームで、選択した車を操作して決められたコースを周回してゴールまでのタイムを競うものです。
本大会でもレースゲームでおなじみの「マリオカート」シリーズが競技として選ばれています。

他にもアクションゲームなど、もともとゲーム内ではタイムの要素がない作品でも、プレイヤー間でいかにゲームを早くクリアするかというプレイに楽しみを見出し、それが全体に広まって競技として成長したものもあり、本大会では「スーパーマリオ64」の最速クリアを目指すスピードランが開催されました。

スピードランの競技性

スピードランはいかに相手よりも先にゲームをクリアするかを競い合うジャンルです。
そのためには、最速タイムを出すためのルート(戦略)を練る必要があります。
その中で安定重視で失敗のリスクが小さいルートもあれば、ライバルに差をつけるために難しいプレイを要求されるルートもあり、選手はその時の状況次第で頭の中で最適なルートを導き出して進めることになります。
また、一度競技が始まればプレイを中断することはできないため、最後まで正確にプレイする集中力と忍耐力が大きく問われることになります。

自分の持つプレイ技術の中で無理なく最後まで走りきることが必要なわけですね。

スピードランとして認められるための要素

さて、タイムを競い合うゲーム自体は世の中にたくさん存在しますが、それでは実際どんなゲームがeスポーツにおけるスピードランだと認められるのでしょうか。

まだ具体的に基準が決まっているわけではなく、これからどんどん成熟していくだろうジャンルですので、個人的な見解で述べていきたいと思います。

公平性の担保

eスポーツの競技として認められる1つの側面として、運に大きく左右されないことが挙げられるかと思います。

たとえば今回選ばれたスピードラン種目においても、マリオカートであれば「全員が同じコースを走る」という公平性がありますし、マリオ64でも同じく「同じルールにのっとって同じコースをクリアする」という公平性が担保されています。

これがコースが変わってしまったり操作キャラの性能が違っていたりすると、公平な競技としては言えないのではないかと思われます。

ちなみに、自分がやっているドラクエ10では戦闘でボスを倒すと撃破タイムが表示されます。

このタイムを競い合うという楽しみ方がプレイヤー同士で行われているわけですが、ボスの行動がランダムでタイムアタックの要素だけで見ると正直運要素がかなりあり、敵の行動によってはなかなか安全に攻撃できないような状況が続いてしまいます。

実際好タイムを出しているプレイヤーも、何度も繰り返し試行してそれがようやく成功して形になったというのが通常なので、スピードランの競技としては難しいのかなという印象ですね。

他には、風来のシレンなどで知られるローグライクゲームもタイムアタックの要素があります。
自動生成されるダンジョンを進みながら落ちているアイテムを駆使して道中のモンスターに対処していき、最深部を目指すゲームです。

このように最深部に到達した時点でゲーム内でクリアタイムが証拠として残り、このタイムをプレイヤー同士で競い合っているわけです。

比較的頻繁に世界記録が塗り替えられ、プレイヤーは最速クリアを目指して日々プレイするのですが、やはりこれも落ちているアイテムや配置モンスターがランダムであり、その構成によって大きくタイムが変わってしまいます。

何度もプレイしてはじめて好タイムをたたき出せる構成を引き当て、そこからミスなくプレイを続けられたプレイヤーが最速タイムをたたき出す感じなので、これまたスピードランの競技としては難しいのかなという印象ですね。

タイム要素が盛り込まれたおもしろいゲームはたくさんあるのですが、やはり運要素が大きく絡んでしまうゲームは現状eスポーツには採用されにくいのかなと思います。

要求されるプレイ技術レベルの高さ

いくら公平性が保たれていても、最速クリアを目指すうえでプレイ技術がそれほど必要でなければ、誰でも簡単に最速タイムが出せてしまいます。

最速プレイを出すために随所で細かいタイム短縮のテクニックを使ったり、ゲームによっては難易度の高いバグ技(開発が想定していないプログラム上の抜け道を利用したテクニック)を駆使してとことん最速タイムを目指すような、いわゆる競技としての奥深さが必要であると思われます。

そういう意味では今回マリオ64が選ばれたのは個人的に評価しており、マリオ64は3Dゲームでフィールドを自由に駆け回れるゲームであるからこそ、緻密で複雑な操作が必要とされる部分がeスポーツの競技としてふさわしいのかなと思います。

もちろん、ファミコン時代のマリオであったりロックマンといった、いわゆる2Dゲーム(平面)でもスピードランとして十分楽しめる要素はありますし、実際イベントでもよく採用されたりしていますが、2Dであるがゆえに紛れがそこまで起きにくく、割と誰でも一定のレベルまではすぐに上達できてしまうといった懸念もあるのかなという気がします。

たくさん練習して様々なプレイ技術を身につける余地があったり、状況に応じて戦略を変えられるようなゲーム性を盛り込もうと思ったら、3Dゲームの方が向いているかもしれませんね。

ルール作りの徹底

これは前述の公平性にもつながることですが、各タイトルごとに最適なルールをしっかり作れないとeスポーツ競技としては厳しいのかなという気がします。

レースゲームであればもともとタイムアタック要素がゲームに盛り込まれているのでそれほど問題はありませんが、マリオ64などのアクションゲームはもともとゲームにタイムアタック的な要素は盛り込まれておらず、プレイヤーらが独自にタイムアタック的な楽しみ方を見出しそれが認められたものです。

そのため、プレイヤーらが全員一定のレベルで納得できるルールを作る必要があります。

ルールをきちんと作るには、その競技を行うプレイヤーが大勢いないとなかなか形になりません。
そのため、プレイ人口も大きな要素の一つになっていくのではないかと思われます。

スピードランの可能性

スピードランというジャンルのポテンシャルはかなり大きいと思います。

先ほどお伝えしました通り、マリオ64はもともとゲーム内にタイムアタック要素は盛り込まれていなかったのですが、プレイヤーらが最速クリアを目指す楽しみ方を独自に生み出し、それが浸透して今日競技として認められるに至りました。

スピードランという競技の発展はまだまだこれからというところ。
メーカーがスピードラン向けの新たなゲームを作って広めていくことももちろん考えられますが、プレイヤーが既存のゲームで新たにスピードランとしての遊び方を提案し、それが認められる可能性が無限にあるところがこのジャンルの一番の魅力ではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございます!